徒然防備録(エロゲ、アニメ評価感想その他諸々)

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永遠に語り継がれるべき最高傑作【装甲悪鬼村正】感想


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前置きは特にありません。最近暑いっすね〜。

※以下、重要なネタバレを含みます。必ず未プレイの方は見ないようにお願いします。あなたの楽しみを奪いたく無いので。

 

 

 

 

 

 

 

本題

 

何から話すべきか、非常に難しいところです。私の中でもまだイマイチ整理がついていない部分はあるのですが、まず所感として、最高の作品かもしれません。巷で評価が高いと言うのは聞いていたので、それはそれは過剰な程に期待をしてプレイしたのですが、にも関わらずそれが裏切られることなく、どころか勝る勢いの作品だったと思います。

 

どこが良かったのか、ですが、まずは作り込みの深さでしょう。

時代設定としては、現代と言うには古く、或いは戦国時代と言うには新しい。そんな特殊な時代で、この状態を作り出しているのは他でもなく、ツルギの存在です。つまり部分的には古く、逆に部分的には新しい、と。そういうわけです。当然ながら、こんな時代設定は特殊で、つまり、プレイヤーからすると馴染みのない世界観なわけです。それを馴染ませるためにはまず、その世界の作りこみを深くしておく必要が当然あります。そしてそれを可能としているのが本作です。簡単そうに思えますがこれは非常に難しいことで、なぜなら存在していない世界観だからです。要するに参考にできるものが何も無いということになります。にも関わらずこれが達成できている、どころか出来すぎていると言うべきでしょう。こちらをうまくこの世界にのめり込ませてくれていました。例えばツルギの話だったり戦い方、剣術の設定、情勢、各々の思想、そしてそれらすべてに対する合理性。雑に描きましたが、こんなものを全て構築してそれをこちらに理解させる、こんな難しいことがなぜ出来るのか全くもって理解できません。圧巻としか言えません。

 

そして、設定がしっかりしているからこそ話も全てうまく成立していく。

物語の要点としてはこうです。

・主人公は異能を使って卵を破壊している

・敵は幕府と進駐軍(外国)、そして銀星号という全くもって異質な存在

 

実に分かりやすいですよね。そしてこの単純さもまた、プレイする側にストレスを与えない。と言っても、最初の用語や諸々についての理解は多少苦労はしますが。

そして更に、わかりやすいストーリーにも関わらず、絶対的なテーマがある。

これに正解は無いと思いますが、私はなんと言っても『善悪相殺』、これに尽きると思います。これは物語が始まった当初、単なる『枷』であり『苦痛』でしかありません。しかし物語を終えてみるとどうでしょうか。全くもって見方が変わります。しかし一貫しているのは、どのルートにしてもどのエンディングにしても、結局はここに辿り着くのです。『善とは、そして悪とは何か』ということに。

確かに単なる言葉として『善悪』について述べることは容易でしょう。誰しもやっている事です。そんな一般倫理に突きつけてきたんです。それは真実か、と。物語全てを通して。

これほどまでに真摯にそんなテーマに向き合い、そしてそれを解明し、言語化し、他者に伝えるのではなく『感じさせる』ようにするには相当な解像度の高さを持ち合わせていなければできません。言葉を尽くしてもこの事実に対して私の考えを表現し切れることはありませんが、まずは最大の感謝と賞賛をしておきたいと思います。本当にありがとうございます。

 

そしてそれを演出する仮定、すなわちストーリー展開についても勿論文句の一つも浮かびません。あくまでエンタメとしての要素を残しつつ、文学的な側面も持ち合わせている、まさに私がエロゲというものに求めていたものそのものです。

正直、良すぎて特筆する点はありませんが、強いて何点か言うなら、キャラクターと、そしてプレイヤー心理の理解にあるでしょうか。

求められるべきキャラクターが求められる振る舞いをし、そしてそのいちいちがプレイヤーの(やや語弊はあるが)望む展開であるということです。

エンタメ的側面としてはロボットもの、と一括りにするのも惜しいですが、敢えて言うならそういう書き方になるでしょう。こうすることで戦闘面における退屈さや絵面の虚しさを解消できています。

と、まあ軽く三点ほど書きましたが、こんな簡単に言い切れるものでは無いと思います。それだけ言語化できない全ての噛み合いの良さが本作にはあったと思います。

 

更に、ゲーム性という部分についてもえげつない。はい、文字通りえげつないです。本当にすごいですね、このブランドは。

大抵の作品が抱える『選択肢の必要性』という問題を完璧に解決していると思います。これはあくまで個人的な考えに過ぎませんが、例えば『ゆずソフト』の作品なんかを例に挙げると、ただ単に『好感度を上げるシステム』として選択肢の価値があり、すなわち『誰の好感度を上げますか? 誰のルートに入りますか?』という質問に他ならないのが『選択肢』です。これは別に基本的にどの作品もそうですし、取り立てて悪いなんて言うつもりもありません。進化の結果、という言い方もできるでしょう。『攻略したくない人を攻略してしまうのが嫌だ、このヒロインのルートをやりたい』というプレイヤーの甘えに対する回答として。しかしそうして得た結果に果たして意味はあるのでしょうか。あなたの意思は、あなたの選択はありましたか?

ありません。あるはずも無いです。あるのは与えられたものに無機質に反応したという事実だけです。それは選択では無い、それは選択肢として価値がない

少なくとも私はそう思います。まあもっともこんなのはおそらく少数の意見でしょう。最近のエロゲの尽くがこのシステムを採用していることからも明白です。(もはや選択肢の存在しない作品や更に簡略化した作品もあるが)

要するに『その方が売れるからそうしている』、これが真実でしょう。そして同時にそういった考えを持つ層が多いのが現在の界隈ということです。

とまあ、話は逸れましたが、つまり私は『選択肢で悩みたい』んです。でなければ、つまり、『これを選んだらどうなるんだ』という緊張感のない選択肢であるなら、単なるストレスでしかありません。私にとって意味のないことでしかない。なぜなら選択しなくても同じことだからです。選択していないからです。

要するに、

『ゲーム性のない選択肢は不要、ゲーム性を持たせた選択肢には価値がある』

というのが私の結論です。さて、そんな私の悩みを解消してくれた作品が、過去にとりあげた『君と彼女と彼女の恋。』という作品でした。あれはテーマがまた本作とは違っていたのでその点はやはりあちらの方が優秀だったと思います。(と言うかあれを超える作品が存在するとは思えませんが)

そして、本作は、そこと同じブランドです。さて、それはさておき。どこが他の作品と選択肢と違うのかというのは話した通りですが、より具体的にはどこが違うのか。

まず、本作の選択肢イコール好感度に影響を与えるだけのもの、では無いという点にあります。例えば戦闘中にどう戦うか、だったり窮地を脱するためにどうするか、だったり、と。つまりゲーム性が十二分に存在するわけです。

 

そしてもう一点、選択が単に面倒な作業にはならない。これも非常に重要なことです。

選択肢が膨大にある、それは良いんですが、それがブランドの、あるいは製作者の自己満足になってしまっては、これは確かにゲーム性はありますがエンタメとは言えないでしょう。プレイヤーが楽しくないのですから。つまりある程度の難易度とある程度の報酬を適切に与える必要があるわけです。報酬もなく、淡々と選択していくだけで何が楽しいでしょう。そして手がかりもなく、つまり考える余地もなく、まるでくじ引きのように選択するのでは意味がありません。それらはただの作業です。

その辺りも正確に考えられていることはさすがはあのブランドの作品だと思いました。

 

最後に一点。これが私には最も衝撃的でしたが、好感度を上げることはそのキャラクターを攻略(あるいは個別ルートに入る)することと同義ではないということです。

よく分からないかもしれませんが、考えてみてください。一般的に、と言うよりどう考えても、好感度を上げるというのは、つまりそのキャラクターのルートに入るための行為であって間違ってもその逆は有り得ません。

しかし本作においてはどうでしょう。この常識は本作ではまるで通用しません。

※念の為再度書いておきますが、この後に書くことは本作の根底とも言える要素になります。未プレイで読んでいる方はどうかブラウザバックお願いします。あなたの楽しみを奪いたくありません。

 

 

 

 

 

 

なぜか。本作のテーマは『善悪相殺』だからです。つまり『好感度を上げるとそのキャラクターを殺してしまう』んです。この仕組みに気づかないことには本作の攻略は困難でしょう。私は一周して、と言うより善悪相殺

という戒律の存在が提示されて始めて気づきました。なるほど、と。

ここにストレスは全くありませんでした。単なる嫌がらせでもなく、ちゃんと整合性のとれた紛れもない真実だからです。こんなことをどうやったらできるんでしょう。いえ、こんな発想がどうやったら浮かんでくるのでしょう。信じられません。

 

その上、本作は選択肢を選んで違ったとしても即終わりではありません。そこから間違ったまま続くんです。そんなことが信じられますか?

考えてもみてください。

つまりは違う選択肢を選んだ場合にもストーリーをつける必要があるわけです。そもそもそれは違う選択肢なわけですから、ストーリーを考えるのは困難で、同時に無駄でしか無いのに。

ではなぜこんなことをするのか。

これが先ほどの適切な難易度です。違う選択肢を選んですぐBAD ENDになるのなら、それはどれほど簡単でしょうか。しらみつぶしにやっていくだけで済みます。つまり作業です。

本ブランドはそれを避けたんです。一見して徒労でしかないことをわざわざやったんです。プレイヤーを楽しませるために。正気ではないでしょう。そうです。えげつないんです。

 

 

ここまでで十分に私としては、本作の素晴らしさを表現できたので、逆に気になった点をいくつか。

 

①やや勢いが足りない部分が多かった。

例えばですが、憎き相手がいてそれを目の前にして長々と問答する場面があります。我々、と言うより私としてはこれはすぐさま戦いはじめて欲しい展開です。怒りのままに、それが聞かなくてはならないことだとしても、それでもまずは戦うのが人間ではないでしょうか。つまり段々と冷めてくるんですよね、こちらとしても。そうして戦い始める頃にはこちらの熱はもはや無くなっている、と。

まあこんな話は別の記事でも話したので割愛しますが、それがキャラクター性に基づいて納得できるなら良いんですが、そうもいかないのは何とも勿体ないと思いました。

 

②背景の使い回し

これは単にその通りなのですが、別段背景が少ないわけでもないんです。むしろ多いです。

ですがあまりにも話が壮大すぎるのに対して背景を使い回されるとこれが今どこにいるのか、等がごちゃごちゃになってきます。まあそこまで言うことではありません。

 

③やや強引な場面

時折、精神論が理論を上回ることがあったのはやや勿体ないかなと思いました。もう戦えんだろ、的なことですね。まあこれも大したことではありません。

 

④重要場面におけるCGの少なさ

これは割と残念な部分で、基本的に死体やグロそうな場面はほぼありません。例えば音がするだけとか血の演出が入るだけ、とか。

なぜ私がこれを気にするかと言うと、より本作の根底にあるテーマをこちらに伝える上ではその方が良かったと思うからです。

つまりより感情移入しやすくなるためです。

死んだ、斬ったと言われてもそれがあまり実感をもてないんです。なぜなら斬った場面にリアリティがないから。音だけだから。

 

悪い部分はこんなところです。見ての通り対してどこも悪い部分はありません。

 

何か最後にまとめる感じになって申し訳ない部分はありますが、他にも映像(アニメーション)や演出的な面でのリアリティの追求、そして本質的な文章力の高さなど、本当に素晴らしいの一言に尽きます。

最高の作品です。ここまで熱心に、そして真摯に作品制作に取り組んでくれた全ての方々に心より感謝を。以上。